第15回「業界展望-創薬」 癌治療の新兵器、腫瘍溶解性ウイルスが見えてきた
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この分析担当者の執筆により、随時、サイエンスレポート「業界展望」をお届けしております。今回は第15回です。
癌治療の新兵器、腫瘍溶解性ウイルスが見えてきた
腫瘍溶解性ウイルスの開発が急拡大を見せている。遺伝子改変による技術的な進歩に加え、最近、開発に必要な試験要件の整理、治療現場で生のウイルスを操作するための治療指針など規制上の整備が進んだことが追い風となった。今後、一連の腫瘍溶解性ウイルスが、新たな治療ツールになる可能性がある。
■急拡大する腫瘍溶解性ウイルスのパイプライン 腫瘍溶解性ウイルスは、古くはウイルス感染や生ウイルスワクチン接種に伴い癌の縮小が認められたことからその有用性が見いだされた。その特徴は、正常細胞内では増殖できないが、標的癌細胞内では増殖でき、癌細胞を選択的に溶解するというもの。現在では、遺伝子改変により機能を進化させた多様な腫瘍溶解ウイルスが開発されており、その数を急激に増加させている(図1)。
2015年では上市品目と開発品目を合わせて5品目だったものが、2019年4月時点では一挙に42品目となっており、今後、上市ラッシュとなる可能性がある。 癌治療において、従来のウイルスを用いた遺伝子治療ベクターでは、ウイルスが死滅させるのは感染した癌細胞だけ。これに対して、腫瘍溶解性ウイルスでは、感染した癌細胞内で増殖し宿主の癌細胞を溶解するとともに、周辺の癌細胞や、離れた場所の転移巣の癌細胞にも再感染することで、全身への効果が期待できる(図2)。
さらに、ウイルスは感染した癌細胞の表面に抗原として提示され、免疫反応を引き起こして癌細胞の排除をより効果的かつ持続的なものとする。これらのことから、手術適応が難しい患者にも福音をもたらすものと期待されている。
■国内で登場間近な腫瘍溶解性ウイルス治療薬 2015年には、米国初となるAmgenのImlygicがメラノーマを対象として承認され、その後日本でも開発中。日本勢では、タカラバイオのC-REVがメラノーマで申請済、第一三共のDS-1647が膠芽腫を対象に申請準備中で、さらにオンコリスバイオファーマのOBP-301が、メラノーマ、肝臓癌、食道癌等を対象にPh2試験を展開中だ。OBP-301は癌細胞においてテロメラーゼ活性が高いことを利用して癌細胞での増殖特異性を高めたもので、中外製薬/Rocheと全世界を対象とした独占的ライセンス契約にこぎつけた。DS-1647とOBP-301は、「先駆け審査指定制度」の対象にもなっており、早ければ申請後半年程度で承認される可能性がある。基礎研究の進展と規制要件整備の足並みがそろったことで、腫瘍溶解性ウイルスが、次々と癌治療の現場に登場してくる日が近づいてきている。
[OUVC投資部第三グループ調査役 上平昌弘(医学博士)]