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第16回「業界展望-創薬」 臨床開発の成功率:ベンチャーが底上げ

作成者: ouvc_official|2019.6.24

当社は「大阪大学の研究成果を活用した事業」を行うベンチャーを投資対象としております。投資候補先の事業が対象とする業界の動向や市場性、成長性等については、当社は、専門的見地から分析を行う担当者を配置して投資検討を行なっています。

この分析担当者の執筆により、随時、サイエンスレポート「業界展望」をお届けしております。今回は第16回です。

 

臨床開発の成功率:ベンチャーが底上げ

 医薬品開発の成功率は極めて低いと言われて久しい。その創薬ではベンチャー企業の活躍が目覚ましく、開発品目の多くがベンチャー企業を起源としている現実がある。この状況変化は、開発成功率にもあらわれている。ベンチャー企業は、大手の製薬企業と比較して低いクライテリア臨床試験に着手し、その結果として、成功率も低いのでは、という思い込みが間違いである事は明らかだ。むしろ、ベンチャー企業は成功率でも業界を牽引していると言える。

 日本、北米および 欧州に本社が存在する企業が創出した開発品を対象に、2014~2018年の臨床開発の成功率を求めた(Pharmaprojectsのデータベースから算出)。臨床試験は、いくつかの段階を経て最終ゴールの承認に至る (Phase I 、Phase II 、Phase III 、申請・審査、承認)。ある相から次の相に移行する率(たとえばPhase IからPhase IIへの移行率:40品目がPhase Iで開発が中止され、60品目がPhase IIに移行した場合の相移行率は60% となる)を求め、各相の移行率を乗じたものが臨床試験開始から承認取得までの成功率となる。今回の試算では、5年間に次相へ移行したものと開発が中止されたものの合計はのべ6,025品目だった。

 Phase I開始から承認取得に至る成功率を創出企業の特性ごとに求めたものが下の図。ベンチャー企業オリジンの開発品の成功率は約18%で、グローバル企業やその他の既存製薬企業に比べて高い。
 同じデータベースを用いた以前の解析結果では、2008~2011年の成功率は10%を切っている (NATURE REVIEWS DRUG DISCOVERY, 15, 379-380, 2016)。今回の結果では、最も低いグローバル企業品でも約12%であり、近年、成功率の改善も窺える結果となっている。

 ベンチャー企業を起源とする品目が、高い成功率を示した背景は何だろうか。臨床試験の各相移行率を見たものが下の図。ベンチャー企業の開発品目は約70%の割合でPhase IからPhase IIに移行しているのに対し、グローバル企業とその他企業の移行率は、それぞれ48%と59%だった。その他の相の移行率には企業グループ間で大きな差は無い。つまり、Phase Iの移行率の差が臨床試験全体の成功率の差に結びついていることが分かる。

 

 今回の結果から、ベンチャー企業で創出された品目は臨床開発が成功しやすい、なんらかの特徴を有していることが示唆される。その要因を見出すことで、成功率の向上、生産性の改善に結びつくヒントが見出されるかもしれない。

[OUVC投資部第三グループ調査役 西角文夫]

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