当社は「大阪大学の研究成果を活用した事業」を行うベンチャーを投資対象としております。投資候補先の事業が対象とする業界の動向や市場性、成長性等については、当社は、専門的見地から分析を行う担当者を配置して投資検討を行なっています。
この分析担当者の執筆により、随時、サイエンスレポート「業界展望」をお届けしております。今回は第13回です。
ここ数年、国内バイオベンチャー企業への投資が伸びている。ファイナンス面の盛り上がりは本物なのだろうか。その活動実態を見るために導出契約の動向を分析した。バイオベンチャー企業から製薬会社等への導出契約から見る限り、活発な活動には裏付けがありそうだ。
国内のベンチャーキャピタル等による国内向け投資は、2017年度は1,354億円と、対前年比で24.0%の増加だった(2017年4月~2018年3月:一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターによる115社のアンケート調査結果)。このうち、バイオ/ヘルスケア関連は、約2割でIT関連に次いで多い。ファイナンス面で活況を示しつつある国内バイオベンチャー企業の現状は、導出契約の動向(開発中止を除く)が裏付けている。
図1に見るように、近年、導出契約数は増加傾向で、とりわけ昨年は、6月までに10件と、多くの導出契約が結ばれていた。直近3年の導出契約では、基礎研究および非臨床ステージのものが約半数、過去に結ばれた契約ほど現在のステージは進み、上市品やPh3品が多くなる。契約が継続しているものは、着実に開発ステージを上げてきていることが窺える。
年度毎の導出契約について、各モダリティの割合推移を見た(図2)。2005年以前は低分子のみだったものが、近年になるにしたがってモダリティのバラエティーが増えてきている。すなわち、新しいモダリティが古いものに置き換わるのではなく、低分子などの古くからあるモダリティに新しいバイオ系のモダリティが加わってきていることが分かる。これは、ベンチャー企業の有するモダリティが多岐にわたっており、強みのある分野においては、それぞれが医薬品となる価値を有していることを示している。
年度毎の各疾患領域の割合(図3)では、2006年以降、癌の割合が最も多く、平均で4割程度を占めている。それ以外は一定の傾向を示さず、各領域に広く契約が結ばれていることが分かる(図3)。製薬会社の関心領域を反映しているものと思われる。 バイオベンチャー企業の導出動向からの分析でも、近年のファイナンス面での活況に根拠があることが分かった。こういった状況が今後も継続してゆくのかは、アカデミアにとってもファイナンス業界にとっても目が離せない。
[OUVC投資部第三グループ調査役 上平昌弘(医学博士)]
(*:2018年6月末までの状況、日経バイオテク、2018年7月23日号「バイオベンチャーの導出契約◎2018」よりOUVCにて作成)