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「専門医の眼を、すべての人へ」―ayumo 桑田CEO × OUVC 田賀投資部長 対談―

株式会社ayumoの事業について

株式会社ayumo(以下、ayumo)は、歩行(歩容)データをAIで解析し、疾患の早期発見や健康状態の可視化を実現するスタートアップです。カメラで撮影した歩行動画から歩き方の特徴を抽出し、深層学習により特定の脊椎疾患や脳神経疾患などの罹患可能性を推定する技術を開発しています。センサーを着用する必要がなく、普段着のまま簡便に利用できる点が大きな特徴です。現在は、医療機関における診断支援(SaMD)に加え、転倒リスク評価や運動機能の定量化など、ウェルネス領域での活用も進めています。歩行を“誰もが使える健康指標”とすることを目指しています。

 

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はじめに

歩行は、人の健康状態や身体機能を映し出す重要な指標でありながら、これまで医療現場では専門医の経験や主観に依存して評価されてきた領域です。ayumoは、独自のAI技術を活用して歩行を定量的に解析し、診断支援やリハビリ評価の高度化を目指す医療AIスタートアップです。大阪大学との共同研究を基盤に医療機器開発を進め、歩行解析を社会インフラへと発展させることを掲げています。今回の対談では、ayumo代表取締役CEO 桑田氏と大阪大学ベンチャーキャピタル(以下、OUVC)投資部長 田賀氏が、創業の背景から技術の競争優位性、今後の成長戦略までを語り合いました。

 

2603_InsightBlog_2_0(左)ayumo 代表取締役CEO桑田氏 (右)大阪大学ベンチャーキャピタル 田賀投資部長  

 

 

登壇者ご紹介

ayumo代表取締役・CEO 桑田 佳幸(くわだ よしゆき) 

 

大阪大学大学院工学研究科修了後、旭硝子株式会社(現:AGC)に入社。その後、複数のコンサルティングファームにて、官公庁・自治体や民間企業に対する新規事業・新産業創出支援、経営改革支援等に従事した後、ayumo共同創業、代表取締役・CEOに就任。

 

投資部  投資部長 田賀 悠記(たが ゆうき) 

 

物性物理学分野で修士課程修了後、住友電気工業に入社し産業設備の設計開発、プラントの立上げ、設備投資等を担当。MBA留学を経て大阪大学ベンチャーキャピタルに参画。キャピタリストとして大学発ディープテックスタートアップの創業支援、スタートアップ投資および投資先企業への経営支援を担当

 

 

創業の原点――暗黙知の形式知化という挑戦

田賀(OUVC):

まずは、ayumo創業の背景についてお聞かせください。

 

桑田CEO:

臨床現場では、経験豊富な専門医であれば、患者さんの歩き方を見ただけで疾患の可能性を推定できるケースがあります。しかし、その判断は言語化・標準化されておらず、非専門医には再現できません。この“見れば分かる”という能力をAIで再現できないか、というのが出発点でした。

2019年頃、深層学習や画像解析技術が大きく進化したタイミングで、現在は弊社取締役・CTOである森口悠氏(大阪大学医学部付属病院 未来医療開発部 国際医療センター 特任講師。整形外科専門医・医学博士)が医工連携の取組として、歩容認証技術と医療データを掛け合わせた研究を開始しました。この取り組みは複数の公的グラントに採択され、創業前から5,000万円規模の資金を獲得しています。これは単なる研究ではなく、事業化を見据えた取り組みとして評価された結果だと認識しています。

 

田賀(OUVC):

数ある研究テーマの中から本プロジェクトを選ばれた意思決定の軸は何だったのでしょうか。

 

桑田CEO:

私は市場規模や短期的なスケールよりも、「誰と何を実現するか」を重視しています。森口氏を中心としたチームは、明確なビジョンと事業化への強い意志を持っており、また個人的な背景として、家族の高齢化をきっかけに「歩行機能の低下」が生活の質に直結する課題であると実感していたことも大きいです。社会的意義と実現可能性が重なるテーマであると判断しました。

 

 

社会課題――歩行における評価指標の欠如

田賀(OUVC):
歩行領域における課題について教えてください。

 

桑田CEO:

最も大きな課題は、「歩行における客観的なバロメーター(評価指標)が存在しない」ことです。体温や血圧のように、異常を定量的に判断する基準がないため、患者さん自身も医療者も「いつ受診すべきか」が分かりません。その結果、診断の遅れや見逃しが発生しています。

既存の歩行分析機器は存在しますが、多くはリハビリ用途であり、センサー装着が必要で手間がかかる上、評価指標も限定的です。日常診療で広く使われるインフラにはなっていません。

 

田賀(OUVC):
つまり、歩行を可視化・定量化することで、医療の入り口そのものを変える可能性があるということですね。

 

桑田CEO:

その通りです。歩行を“誰でも使える健康指標”にすることで、早期発見・早期介入を実現し、医療の質そのものを底上げすることができます。

 

 

技術優位性――データ基盤が生む構造的参入障壁

田賀(OUVC):

技術面での競争優位性について教えてください。

 

桑田CEO:

我々の強みはアルゴリズム単体ではなく、「データ基盤」にあります。大規模病院や大学との連携により、実臨床の中で取得された多くの歩行動画データを蓄積しています。

歩行動画の取得は、倫理面・運用面ともに難易度が高く、単に技術があれば実現できるものではありません。臨床現場との信頼関係を前提に、長期間かけて構築してきた資産です。この点が、他社にとって大きな参入障壁になっています。

 

田賀(OUVC):

データ取得そのものが競争優位の源泉ということですね。

 

桑田CEO: 

はい。さらに重要なのは、単一疾患ではなく複数の疾患にまたがるデータを取得している点です。これにより、将来的な診断支援対象の拡張、いわゆるパイプライン展開が可能になります。

技術的には、カメラのみで歩行を撮影し、歩容特徴を抽出した上で、深層学習により疾患の罹患可能性を推定する構成です。センサーが不要であることは、臨床現場の導入ハードルを大きく下げる要素になります。

 

 

ビジネスモデル――医療とウェルネスの統合戦略

田賀(OUVC):

事業モデルについて詳しく教えてください。

 

桑田CEO: 

我々は「歩行のバロメーター」というポジショニングを取りに行っています。そのため、医療機器領域とウェルネス領域の両方を同時に展開しています。

医療領域では、SaMDとしての診断支援システムを開発しています。歩行動画から疾患の罹患可能性を推定するもので、特に専門医でも判断が難しい疾患にフォーカスしています。

一方、ウェルネス領域では予防・回復に貢献するソリューションを提供しています。ロコモティブシンドロームの評価や転倒リスクの可視化、運動プログラムとの連携などが代表例です。

 

田賀(OUVC):

企業向けの活用も進んでいると聞いています。どういう部分でのニーズがおありでしょうか。

 

桑田CEO: 

はい。製造業や建設業では、中高齢者の運動機能低下が安全性や生産性に直結します。そのため、健康管理や労災防止の一環として導入ニーズが高まっています。また、商品開発において機能性を定量的に評価するツールとしての活用も広がっています。

 

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成長戦略――疾患拡張とグローバル展開

田賀(OUVC):
今後の成長戦略について教えてください。

 

桑田CEO:

主に2つあります。1つは対象疾患の拡張です。特定の脊椎疾患や脳神経疾患など、診断が難しい疾患からスタートし、順次パイプラインを広げていきます。特に「見逃されやすい疾患」にフォーカスすることで、臨床価値の高い領域を狙っています。

もう1つはグローバル展開です。歩行困難者は世界中に存在し、特に海外では今後も増加が見込まれます。ただし医療制度が異なるため、日本と同一のビジネスモデルの適用は難しいと考えています。現在は各国でのリサーチを進め、最適なモデルを検証しています。

 

田賀(OUVC):
海外ではウェルネス領域の重要性も高まりそうですね。

 

桑田CEO:

その通りです。特に米国では、医療よりもウェルネスの方がビジネスとして大きくなる可能性があります。医療×ウェルネスのバランスを国ごとに最適化する必要があります。

 

 

チーム――医工連携を実装する組織力

田賀(OUVC):
チームの特徴について教えてください。

 

桑田CEO:
医師、AIエンジニア、薬事専門家、事業開発人材など、約20名で構成されています。医療機器開発に不可欠な専門性を持つメンバーが揃っていると自負しています。

 

田賀(OUVC):
医工連携が実装されている点が強みですね。

 

桑田CEO:
はい、そのように思います。一方で、専門性の違いによる意思統一は簡単ではありません。医師、エンジニア、事業人材それぞれで思考様式が異なるため、最終的には経営として意思決定し、プロジェクトをやり切ることが重要になります。

 

 

投資判断――カテゴリー創出の可能性

田賀(OUVC):

OUVCとしては、歩行×AIという未開拓領域において、カテゴリーリーダーとなる可能性を評価しました。特に、歩行動画のみで疾患推定を行う事例が存在しない点は大きいです。

また、実臨床データに基づく参入障壁と、複数疾患への展開可能性は、長期的な成長を支える重要な要素です。 

 

桑田CEO:
評価いただきありがとうございます。今後は事業拡大に伴い、営業体制やパートナーシップの強化が重要になります。 

 

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OUVCへの期待――成長フェーズに応じた支援の深化

田賀(OUVC):
OUVCがこれまで実施してきたサポートは、御社にどのような影響を与えましたか。

 

桑田CEO:

これまで既に多くのご支援をいただいており、大変感謝しています。特に事業会社のご紹介や海外イベントへの参加機会の提供など、我々の視野を広げる上で非常に大きな価値がありました。中でも、米国のアクセラレータプログラムへの参加は、従来考えていたビジネスモデルを見直す重要なきっかけになりました。

また、資金調達においても多くの投資家や事業会社との接点を作っていただいており、シード〜アーリーフェーズにおいて非常に心強い存在だと感じています。

 

田賀(OUVC):
ありがとうございます。最後に今後のフェーズにおいては、どのような支援がより重要になるとお考えでしょうか。また、OUVCに期待している点などをお教えください。

 

桑田CEO: 

今後は事業拡大フェーズに入っていく中で、これまでとは異なる支援ニーズが出てくると考えています。具体的には、営業体制の構築やサプライチェーンの整備、さらにはパートナー企業との連携強化など、より実務的かつスケールを見据えた支援が重要になります。

特に医療機器ビジネスにおいては、単にプロダクトが優れているだけでは市場に浸透しません。どのように医療機関に導入していくか、どのようなパートナーと組むかといった戦略が極めて重要です。その点において、OUVCが持つネットワークや知見には大きな期待を寄せています。

 

田賀(OUVC): 

我々としても、単なる資金提供にとどまらず、事業提携や将来的なM&A/IPOも見据えた支援を強化していきたいと考えています。特に医療機器メーカーや製薬企業との連携など、事業シナジーの創出に貢献できればと思います。

 

桑田CEO: 

ご支援いただきありがとうございます。資金調達においても、単なる資本だけでなく、事業シナジーが明確であることが重要になってきています。そうした意味でも、投資家・事業会社との橋渡しを早い段階からご支援いただけることは非常に価値が高いと感じています。

今後はプロダクトのローンチや市場拡大のフェーズに入っていくため、これまで以上に実行力が問われます。OUVCと連携しながら、事業の成長を加速させていきたいと考えています。

 

田賀(OUVC): 

期待に応えられるよう、これからも一緒に頑張っていきたいと思っております。本日はありがとうございました。

 

 

終わりに

ayumoの挑戦は、医療の高度な知見を一部の専門家に留めるのではなく、社会全体へと解放していく取り組みです。

歩くという、日常的な行為の中に潜む変化を捉え、誰もが自分の健康状態に気づける社会を実現していきます。その先には、診断の遅れや見逃しが減り、一人ひとりがより長く自立した生活を送れる未来が広がっています。そして、そのビジョンは着実に現実へと近づいています。
歩行が「健康の入り口」となる世界の実現に向けて、ayumoの挑戦はこれからも続いていきます。
 

 

(写真撮影・対談記録:南谷智之、延原憲一(OUVC経営企画部)) 

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