第21回「業界展望-創薬」 バイオファースト元年

当社は「大阪大学の研究成果を活用した事業」を行うベンチャーを投資対象としております。投資候補先の事業が対象とする業界の動向や市場性、成長性等については、当社は、専門的見地から分析を行う担当者を配置して投資検討を行なっています。

この分析担当者の執筆により、随時、サイエンスレポート「業界展望」をお届けしております。今回は第21回です。


 

バイオファースト元年

 昨年6月、我国として10年ぶりとなるバイオ戦略2019が取りまとめられた。「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現する」という大きな目標を掲げ、9つの重点領域が定められた。今年は、そのビジョンの一つであるバイオファースト(まずバイオでできることから考え、行動を起こせる社会の実現)に向けたスタートの年となる。今回それをよい機会として、バイオ医薬品を含む医薬品産業の将来についてマクロの視点から展望を試みた。

医薬品市場規模がトップランクへ躍進
 2016年の世界市場規模ランキング10位までを市場別に図1に示した。自動車の地位は揺るがず274兆円でトップである。医療用医薬品が104兆円で3位、OTC医薬品が15兆円で6位といずれも巨大市場だが、日系企業のシェアはそれぞれ10.8% 、4.3%と自動車の23%と比べると存在感は薄い。
 これまでの自動車市場は大変好調で年平均約12%(2012年~2016年)の成長率で拡大してきたが、最近カーシェアリングの普及や米中市場の減速で成長に急ブレーキがかかっており、今後は低成長が見込まれている。一方の医薬品は、がんや希少疾患を対象にした活発な新薬開発が続き、過去のトレンドを上回る数の新薬登場で市場が牽引され、今後高い成長率(6.9%)が見込まれている。2016年の市場規模をもとに推定すると2025年~2030年頃には自動車と肩を並べる可能性がある(図2)。

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バイオ医薬品市場と研究開発費のさらなる拡大
 この10年の間、医療用医薬品では低分子などの既存技術による医薬品の販売額の割合が80%超から70%までに減少した。半面、バイオ医薬品の割合は増加しており、今後もこの傾向が続くと予想されている(図3)。製薬企業の開発費は、過去も将来も対売上比20%程度でほぼ一定。医薬品市場の成長に合わせ研究開発費も大きく増加してゆくものと思われ、バイオ医薬品の研究開発費に重点が置かれる中で、バイオ医薬品に関わる産業のすそ野もさらに広がってゆきそうだ(図4)。

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バイオファースト元年
 策定が遅れているバイオ戦略2019のロードマップが今年には発表されるはずだ。我国として自動車産業の重要性は不動だとしても、世界市場の今後の動きを見ると、手薄となっている医薬品、特にバイオ医薬品への戦略的取り組みは、我国の浮沈に関わっていると言っても過言ではない。新たなバイオ戦略が実行に移される今年は、特に重要な年となる可能性があり、その社会への影響が将来現実のものとなれば、後年バイオファースト元年として記憶されることになるかもしれない。

[OUVC投資部第三グループ調査役 上平昌弘(医学博士)]

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