網膜ユビキチン化酵素の阻害剤による新たな網膜保護法の開発

作成者: 古川 貴久 教授|Mar 11, 2020 2:49:11 AM


特徴・独自性
 加齢黄斑変性や網膜色素変性症等の網膜変性は、光の長期・高度暴露による光障害が悪化要因の一つとして知られており、光障害を減弱することは網膜保護や変性予防に有効と考えられる。また、光障害性のみならず遺伝性網膜変性マウスにおいて光受容感度を低下させることによって、網膜変性の進行を抑制できることが知られている。光受容感度を調節する機能は、明暗順応と呼ばれ、我々の視覚に重要な役割を果たしている。しかしながら、網膜の桿体視細胞が外界の光の強度に応じて光受容感度を制御する分子メカニズムはよく分かっていなかった。我々は、網膜視細胞に強く発現するユビキチン化酵素KLHL18を見出し、KLHL18ノックアウトマウスを用いた実験から、明暗に応じた桿体視細胞における光受容感度の制御(明暗順応)KLHL18により制御されることを発見し、明暗順応の一連の機能メカニズムを解明した。






▶ 社会実装と実用化への可能性
 我が国を含む世界各国において、失明や重篤な視覚障害をきたす大きな原因として網膜変性が知られており、網膜変性の克服は極めて重要な課題となっている。今回我々が発見した明暗順応の仕組みを利用することによって、網膜視細胞の光受容感度を下げることで視細胞を光による長期的なダメージや老化から守り、網膜以外の組織に影響を与えることなく、明所視力は維持したまま、加齢黄斑変性や網膜色素変性症をはじめとする失明に至る網膜変性疾患の治療薬(進行抑制薬、予防薬)の開発につながることが期待される。
 新薬剤の主要な適応疾患は網膜色素変性症や加齢黄斑変性(特にドライ型)を含む網膜変性疾患である。加齢黄斑変性(ウェット型)患者では、抗VEGF(抗血管新生薬)や光凝固術が用いられているものの、ドライ型の加齢黄斑変性や網膜色素変性症の網膜変性進行に抗しうる薬剤は未開発である。

 

▶ 事業化フェーズ
 大阪大学「起業プロジェクト育成グラント」を活用した起業プロジェクトが進行中

 

募集するポジション
 創業メンバー(CEO候補)

 

 特 許  特願2017-053811 光受容感度の抑制又は低減剤

 論 文  EMBO J. 38(23):e101409, 2019

  参考URL   http://www.protein.osaka-u.ac.jp/furukawa_lab/index.html